サービスデザインワークショップの成果物、どう定義する?質の高いアウトプットを生むための実践的アプローチ
サービスデザインワークショップを企画・運営する際、成果物の質や明確さに不安を感じることは少なくありません。漠然としたアイデアは出たものの、最終的に何が得られたのかが曖昧で、その後のアクションにつながりにくいという状況は、企画担当者にとって大きな課題となります。
本記事では、サービスデザインワークショップで成果物が不明確になる具体的な原因を分析し、質の高いアウトプットを導き出すための実践的な解決策と予防策を詳しくご紹介いたします。
ワークショップの成果物があいまいになる具体的な問題
ワークショップが終了した際、「何となく盛り上がったが、具体的な成果が見えない」「次に何をすべきか明確にならない」「期待していたアウトプットと違った」といった状況に直面することは、企画担当者にとって非常にストレスを感じるものです。これは、単に時間と労力が無駄になるだけでなく、参加者のモチベーション低下や、ワークショップ自体の有効性への疑念につながる可能性もあります。
成果物があいまいになる主な原因
成果物があいまいになる原因は、主に以下の点が挙げられます。
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目的と成果物の定義が不明確: ワークショップを開始する前に、最終的にどのような形式で、どのような情報が、どの程度の粒度でほしいのかが明確に定義されていない場合、参加者はどこを目指せばよいか分からなくなります。
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参加者間の期待値のズレ: 主催者側と参加者側、あるいは参加者同士で、ワークショップで何を生み出すかについての共通認識がない場合、議論が多方向に拡散しやすくなります。
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ファシリテーションが成果物へ誘導できていない: 議論が活発になるのは良いことですが、ファシリテーターがその議論を具体的な成果物へ結びつけるための適切な誘導やフレームワークの適用ができていない場合、最終的なアウトプットがまとまりにくくなります。
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進行途中で軌道修正が不足: ワークショップはライブです。途中で議論の方向性がずれてきた際に、ファシリテーターがそれを察知し、目的や成果物の定義に立ち返るよう促す介入が不足していると、本質的な成果から遠ざかることがあります。
質の高い成果物を生み出すための具体的解決策と予防策
これらの問題に対処し、明確で質の高い成果物を生み出すためには、準備段階から運営、そして終了後までの各フェーズで意識すべきポイントがあります。
1. 事前準備フェーズ:土台を固める
ワークショップの成功は、準備段階で8割決まると言われています。
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ワークショップの目的と目標の明確化: 「何のためにこのワークショップを行うのか」「ワークショップ終了後にどのような状態になっていたいのか」を具体的に言語化します。目標は、SMART原則(Specific: 具体的に、Measurable: 測定可能に、Achievable: 達成可能に、Relevant: 関連性高く、Time-bound: 期限を設けて)に沿って設定すると、より明確になります。
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具体的な成果物の定義と共有: 最も重要なステップです。
- 種類: どのような形式の成果物が必要か(例:カスタマージャーニーマップ、ペルソナシート、アイデアスケッチ、プロトタイプ、具体的な施策リストなど)。
- 形式: 手書き、デジタル、特定のテンプレートなど、具体的な見え方を指定します。
- 達成基準: 成果物に含めるべき要素、情報の粒度、詳細度を定義します(例:ペルソナは「氏名」「年齢」「職業」「悩み」「行動」の5項目を記述する)。
- 「絵姿」の共有: 可能であれば、過去の事例やイメージ図を用いて、成果物が最終的にどのような「絵姿」になるのかを参加者全員に事前に共有します。
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アジェンダと時間配分の設計: 成果物達成までのステップを細分化し、各アクティビティがどのように成果物につながるのかを明確にしたアジェンダを作成します。各タスクに適切な時間配分を行い、ゆとりを持たせることも重要です。
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参加者への事前ブリーフィング: ワークショップの目的、目標、そして「最終的にどのような成果物を作成したいのか」を事前に参加者全員に伝達します。これにより、参加者の期待値を揃え、目的意識を持って臨んでもらえます。
2. ワークショップ運営フェーズ:成果物へ導く
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開始時に目的と成果物を再確認: ワークショップ開始時、参加者全員に改めて目的と目標、そして最終的な成果物の「絵姿」と達成基準を提示し、共有する時間を作ります。「今日のゴールは〇〇というアウトプットを作成することです」と明確に伝えます。
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ファシリテーターによる明確な指示とガイド: 各アクティビティの前に、ファシリテーターが「この時間で〇〇を作成します。その際、△△の要素を含めてください」といった具体的な指示を出します。議論が迷走し始めたら、「この議論は、最終的な〇〇(成果物)にどのように貢献するでしょうか」といった問いかけで、目的意識を促します。
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中間での進捗確認と成果物への接続意識づけ: ワークショップの途中で定期的に立ち止まり、現時点での進捗状況と、それが最終的な成果物にどうつながるかを全員で確認します。必要に応じて、参加者自身に成果物の方向性を確認させることも有効です。
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意見集約と構造化の徹底: 出た意見は必ずホワイトボードや模造紙、デジタルツールなどで可視化し、分類、グルーピング、優先順位付けなどのプロセスを通して構造化します。これにより、漠然としたアイデアの羅列から、具体的な情報へと昇華させます。
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適切なツールの活用: ホワイトボード、付箋、デジタルワークスペース(Miro, Figma Jamなど)は、意見の可視化と集約に不可欠です。これらのツールを効果的に活用し、成果物の要素をリアルタイムで構築していく意識を持ちます。
3. 終了後フェーズ:成果の確定と次へのつなぎ
- 最終アウトプットの再確認とネクストアクションの合意: ワークショップ終了時に、作成された成果物を全員で確認し、その内容について認識のズレがないか確認します。そして、この成果物を「どのように活用するか」「次は何をするか」といったネクストアクションを明確にし、合意を得ます。これにより、ワークショップが単なるイベントで終わらず、具体的な活動につながるようになります。
実践のヒントと心構え
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「Why-What-How」で成果物を考える: 「なぜこのワークショップをやるのか(Why)」「その結果何を得たいのか(What)」「どうやってそれを作り出すのか(How)」の順で思考し、成果物を定義すると、論理的でブレのない設計が可能です。
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「完璧」を目指しすぎない柔軟性: 事前準備は重要ですが、ワークショップは参加者との共創の場です。想定外の素晴らしいアイデアが生まれた場合は、当初の計画にとらわれすぎず、目的達成のために柔軟に軌道修正する心構えも重要です。ただし、この柔軟性は「成果物からの逸脱」ではなく、「成果物への最適な到達経路の選択」であるべきです。
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具体的な成果物の「絵姿」を事前に準備する: もし可能であれば、ファシリテーターが「最終的にはこのような形にしたい」という成果物のサンプルやテンプレートを事前に準備しておき、必要に応じて提示することで、参加者の迷いを軽減できます。
まとめ
サービスデザインワークショップを成功に導き、質の高い成果物を生み出すためには、目的と成果物の明確な定義、そしてその共通認識を参加者全員で持つことが不可欠です。企画担当者は、事前準備の段階で具体的な成果物の「絵姿」を明確にし、運営中はファシリテーターと連携しながら、議論が成果物へと収束するよう継続的に誘導していく必要があります。
これらの実践的なアプローチを取り入れることで、ワークショップの曖昧さを解消し、具体的なアクションにつながる価値あるアウトプットを創造することが可能になります。ぜひ、次回のワークショップ運営にお役立てください。