サービスデザインワークショップで議論が発散する問題をどう解決?具体的な対処法と予防策
はじめに
サービスデザインワークショップの企画・運営をご担当されている皆様、日々の準備お疲れ様です。ワークショップの進行中に、参加者の方々の活発な議論が想定外の方向に進んでしまい、収拾がつかなくなる、あるいは時間内に目的の結論にたどり着けない、といった状況に直面したことはないでしょうか。
特にワークショップの運営経験がまだ浅い場合、このような状況は大きな不安要素となり得ます。しかし、議論の発散は多くのワークショップで起こりうる現象であり、その原因を理解し、適切な対処法を知っていれば、慌てずに対応することが可能です。
本記事では、サービスデザインワークショップで議論が発散してしまう具体的な問題点に焦点を当て、その原因を分析した上で、議論を効果的に収束させるための具体的な対処法と、発散を未然に防ぐための予防策について詳しく解説いたします。この記事を通じて、皆様が自信を持ってワークショップ運営に臨めるようになることを願っております。
なぜ、ワークショップの議論は発散するのか?原因を考える
議論が発散する主な原因はいくつか考えられます。問題を解決するためには、まずその根本原因を理解することが重要です。
- 目的・アジェンダの不明確さ: ワークショップ全体の目的や、個々のセッションで何を目指すのかが参加者間で共有されていない、あるいは曖昧である場合、議論は容易に本来の論点から逸れてしまいます。
- ファシリテーションの不足: タイムキーピングが徹底されない、論点の整理や交通整理が行われない、参加者の発言を聞き流してしまうなど、ファシリテーターの適切な介入がないと、議論は自由に広がりすぎてしまいます。
- 参加者の前提知識や理解度の違い: 参加者間で使用する言葉の定義が異なったり、扱うテーマに対する理解度に差があったりすると、共通認識がないまま議論が進み、話が噛み合わなくなることがあります。
- 多すぎる論点やテーマ: 一つの時間枠の中で複数の複雑な論点を扱おうとすると、議論が拡散しやすくなります。
- 意見の多様性の尊重と集約のバランス: サービスデザインにおいて多様な意見は重要ですが、多様な意見を尊重しつつも、最終的にそれをどのように集約し、結論につなげるかのプロセスが設計されていないと、単なる意見交換で終わってしまいます。
- 時間配分の問題: 各セッションに割り当てられた時間が現実的でなかったり、進行状況に応じた柔軟な時間調整が行われない場合、焦りから議論が飛躍したり、逆に漫然と発散したりします。
議論が発散してしまった時の具体的な対処法
残念ながら議論が発散してしまった場合でも、いくつかのアクションで立て直しを図ることができます。
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一時停止と現状確認:
- 「少し、これまでの議論を整理しましょう」などと声をかけ、一度議論を止めます。
- ホワイトボードや模造紙などに、これまでの議論で出た主要な意見や論点を書き出したり、既に書かれている内容を指しながら、「ここまでは、〇〇という意見が出ましたね」「今の議論は、△△という点についてですね」と、現状を参加者全体で共有します。
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目的・アジェンダへの立ち返り:
- ワークショップや現在のセッションの目的、あるいは次に進むべきアジェンダを改めて参加者に提示し、「このセッションでは、〇〇について結論を出すことが目標です。一度、その目的に立ち返って、今の議論が目的に沿っているか確認しましょう」と促します。
- 可能であれば、目的やアジェンダを大きく掲示しておき、そこを指差しながら説明すると効果的です。
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タイムキーピングの意識付けと区切り:
- 残り時間を意識させ、「この件について議論できる時間はあと〇分です。一度結論を出し、次のテーマに進みましょう」と、明確な区切りを設けます。
- 必要であれば、「この件は一旦ここまでとし、次のテーマに移らせていただきます。もし時間があれば、最後に改めて触れるかもしれません」と、議論を強制的に終了させることも時には必要です。
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意見の可視化と構造化:
- ポストイットを活用して意見を出している場合、関連性の高い意見をグループ化したり、因果関係を図で示したりすることで、議論の構造を明確にします。
- 口頭での議論が中心の場合は、ファシリテーターが主要な意見を要約し、ホワイトボードに箇条書きなどで書き出すことで、議論の焦点を絞りやすくします。
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論点の絞り込みまたは一時保留:
- 複数の論点にまたがって議論が発散している場合、「今の議論は、大きく分けてAとBの論点がありますね。どちらから先に深掘りしましょうか?」などと問いかけ、論点を一つに絞るように促します。
- 重要だが今の目的とは少し逸れる論点については、「その点は非常に重要な視点ですが、今日のワークショップの目的とは少し違うため、今回は一旦【保留】とさせていただきます。別途検討する機会を設けましょう」などと伝え、一時的に議論から外します。
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休憩の活用:
- 議論が膠着したり、感情的になったりして発散している場合は、短時間でも休憩を挟むことで、参加者の気持ちをリフレッシュさせ、冷静さを取り戻すことができます。
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参加者への問いかけ:
- 「今の議論を踏まえて、私たちが次に考えるべき最も重要な点は何でしょうか?」
- 「〇〇さんの視点から見ると、この議論はどう見えますか?」
- 「この議論を進める上で、何か足りない視点はありますか?」 このように、参加者全体や特定の参加者に問いかけることで、議論の方向性を修正したり、新たな視点を導入したりすることができます。
発散を未然に防ぐための予防策
議論の発散は、事前の準備とワークショップ中の適切なファシリテーションである程度防ぐことが可能です。
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目的とアウトプットの明確化と共有:
- ワークショップ全体の目的はもちろん、各セッションで具体的に「どのようなアウトプット(成果物)」を出すのかを企画段階で徹底的に明確にします。
- ワークショップ開始時や各セッション開始時に、目的とアウトプットを参加者に明確に伝え、合意形成を図ります。参加者には事前に目的やアジェンダを共有しておくことも有効です。
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入念なアジェンダとタイムスケジュールの設計:
- 各セッションに無理のない適切な時間を割り当てます。少し余裕を持たせた時間設定にするのも良いでしょう。
- 議論が深まる可能性のあるテーマには、予備の時間を見込んでおくなどの工夫も有効です。
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グランドルールの設定と共有:
- ワークショップ開始時に、「人の話を最後まで聞く」「建設的な意見交換を心がける」「時間を意識する」といったグランドルール(共通の約束事)を設定し、参加者全員で合意します。これにより、スムーズな議論を促進し、脱線を抑制する効果が期待できます。
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議論の可視化計画:
- どのように意見を出し、どのようにまとめるか(ポストイット、ホワイトボード、オンラインツールなど)を事前に計画し、準備します。議論の内容がリアルタイムで可視化されることで、参加者は議論の全体像や流れを把握しやすくなり、発散を防ぐ助けとなります。
- 出た意見をどのようにグルーピングし、整理していくかのプロセスも設計しておきます。
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ファシリテーターとサブファシリテーターの役割分担:
- 人数が多いワークショップでは、メインのファシリテーターとは別に、タイムキーピングや書記、グループ間のサポートを行うサブファシリテーターを配置することで、ファシリテーターが議論の舵取りに集中できます。
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定期的な進捗確認と目的への立ち返りアナウンス:
- 議論の途中で、「現在、〇〇について議論していますね。残り時間は△分です」「この議論は、最初の目的である〇〇の達成に貢献していますか?」などと、定期的に声かけを行います。
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参加者への事前インプット:
- ワークショップで扱うテーマに関する基本的な知識や背景情報を、事前にドキュメントなどで共有しておくことで、参加者間の前提知識の差を減らし、スムーズに本質的な議論に入れるようにします。
実践のヒントと心構え
- 完璧を目指しすぎない: ワークショップは生き物であり、想定外のことは起こり得ます。全ての議論を完璧にコントロールしようとせず、ある程度の柔軟性を持つことも重要です。
- ファシリテーターも人間: 議論の発散に直面しても、自分自身を責めすぎないでください。重要なのは、問題が起きたときに冷静に、そして建設的に対処することです。
- 振り返りの重要性: ワークショップ終了後に、「どのような時に議論が発散しやすかったか」「どのように対応したら効果的だったか」などを振り返ることで、次回の運営に活かすことができます。可能であれば、他の運営メンバーや経験者に相談してみるのも良いでしょう。
まとめ
サービスデザインワークショップにおける議論の発散は、経験を問わず多くの運営担当者が直面しうる課題です。しかし、その原因を理解し、ここでご紹介した具体的な対処法や予防策を講じることで、ワークショップをより効果的に、そしてスムーズに進行させることが可能になります。
発散してしまった時は、慌てずに一旦立ち止まり、現状を共有し、目的やアジェンダに立ち返ることが第一歩です。そして、事前の準備段階で、目的の明確化、アジェンダの設計、可視化計画などをしっかりと行うことが、発散を防ぐ最も重要な予防策となります。
この記事が、皆様のワークショップ運営における不安を軽減し、参加者と共に価値あるアウトプットを生み出すための一助となれば幸いです。